会長の挨拶 2006年
日本高圧力学会会長に就任して
日本高圧力学会会長 財部 健一(岡山理科大学理学部)
はからずも会長に選任され4ヶ月が経過しました。会員各位のご意見をいただきながら一層魅力ある学会とするために微力を尽くしたいと考えておりますのでよろしくお願い致します。
明治の勃興期に誕生した老舗の学会はすでに100歳を超え,戦後の復興期に誕生した学会は60歳前後になっています。今も新しい学会が生まれていると思います。一体,大小の学会が幾つぐらいあるのか,国立情報学研究所のホームページ(学協会情報発信サービス)を見ると約450の学会が登録されています。高圧会議の嚆矢は1955年のゴードンコンファレンスでの高圧会議とあります(AIRAPTのホームページ参照)。AIRAPTの第1回会議は1965年です。日本高圧力学会は,世界的な連鎖の中で始まったと想像される1959年の第1回高圧討論会に源流を持ち,今年で47年,学会発足後17年目を迎えます。さらに高圧力の学術コミュニティーが学会を擁しているのは日本だけであることは皆様がよくご存知のことです。これらを総合的に勘案しますと,本学会が歴史的にも組織的にもユニークで誇れる存在であることに気がつきます。この肥沃な大地からこれからも数多の優れた学術成果が生まれることが期待されています。
高圧技術を横糸にした多様な分野の研究交流が高圧力学会の芯である事はこれからも変わらないのですが,創立17年を迎えて,さらに“学会らしさと魅力”を育てて行くことが求められていると感じています。八木前会長のもとで開始した若手奨励事業(高圧討論会ポスター賞,学生海外発表奨励金)もこの期待に応えようとするものです。他方,基盤となる学会の安定運営は,歴代会長のもとでの数年間にわたる検討と離陸準備を経て,新事務局体制と新学会誌編集体制,電子化が動き出し,一応の解決に至りました。この間,内海前庶務幹事,佐々木編集委員長,草場副委員長,高橋前委員長らの尽力は絶大なものがありました。もちろん絶対的安定はありえず継続的工夫が求められていくことは自明です。また,会長任期を2年とし,複数候補者による選挙に改正したのもこの趣旨からです。
“学会らしさと魅力”を増していく上で検討事項と考えられるものを,先の高圧討論会総会でも述べたことと重複致しますが,この機会に紹介させて頂きます。高圧討論会,新たな賞の新設,創立20周年への準備,“学会知”の発信,国際交流等ですが,ここでは紙面の関係上,2つに限って述べさせて頂きます。
1. 高圧討論会
毎回の高圧討論会は,参加者数,発表件数・内容ともにじつに旺盛で充実しており,現在の運営スタイルで特段の差し障りがないとも言えます。プログラム編成を含む一切を実行委員会に委ねている現在のスタイル,“現地完全委託方式”は,発表件数が300件程度である現在の討論会の規模と歴史と学会の力量を重ねた優れた解だと思います。ところで,セッションの編成は討論会を魅力あるものとする上で重要です。開催研究機関の研究独自色はシンポジュームセッションで引き出し,既設セッション(地球科学,固体物性,流体物性・反応,衝撃圧縮,高圧装置)はシンポジュームと一般講演で行なう方法が定着しております。一方で,討論会は学会の主催行事であるからプログラム編成に責任を持つべきではないか,あるいは,開催研究機関の力量ではプログラム編成が分野によっては重たく感じることがあるとか,の声も聞かれます。現在は問題があればその都度対応して解決していく方法をとっております。また,高圧討論会について会員の声を聞くことをシステムとしては行なっておりません。現行方式を改良・発展させたもう少し優れた方法を検討する余地がないのかと思っています。
セッションについて言えば,将来を見据えて「生物や生命関連のサイエンスとテクノロジー」を主題とするセッションを設けるべきではないかと思っております。個々にはそれらの発表がすでに討論会でなされていますが,セッションを編成することにより当該分野のアクティビティを顕在化させること,誰の目にも分るようにすることが必要ではないかと感じております。これらの研究分野での高圧力が果たす役割は,ブリッジマンによる蛋白質の圧力変性に淵源を見出だすことができ,また会員の皆様も見聞されておられると思います。集団として顕在化すれば,その分野が元気になり,また,学会の一分野として成長してくれるのではないかと期待しております。
高圧力学会らしく高圧技術がもっと見えるようにしてはとの意見も聞こえて来ます。室蘭工業大学の高圧討論会でも,高圧装置のセッションは聴衆も多く盛況でした。独自に開発してきた高圧セルを企業とタイアップして販売しようと考えているという発表も聞き,意気込みにたいへん感心しました。あるいは,赤浜先生の学会賞受賞講演で,マルチメガバールを達成するには“ダイヤモンド脆性の科学”を見据えた探索が必要であるとの講演に感銘された方も多いと思います。セッション発表方法の工夫(例えばシンポジューム,実物展示等)で一層の魅力増加と存在感発揮が図れないかと思います。例えば,セッション世話人がおり,イニシアチブが発揮されればスムースに展開するのではないかと思います。その他に国際交流セッションの可能生にも関心を持っております。
2. 賞の新設
学会賞,功労賞,奨励賞,そして高圧討論会ポスター賞が制定されたことはよくご存知のことと思います。各賞の性格は明確で,各賞に相応しい会員を選ぶことができているのは,学会としてたいへん喜ばしいことです。ノーベル賞を否定的に考える人は少ないでしょう。賞は顕彰された受賞者にとっての喜びであるだけではなく,その分野の到達点を端的に示し,次の世代に目標を与えることができます。従って,スポーツから芸術から凡そ人間活動が社会化されている領域では賞が設けられています。これも人間の知恵でしょう。
学会賞は,正会員で「高圧力の科学・技術の進歩に貢献し,内外から高い評価を受ける顕著な研究成果を収めた者の中から」選ばれ,現在までに5回の授賞を重ねてきました。奨励賞は35歳未満の正会員で「高圧力の科学と技術に関する新進気鋭の研究者・技術者のなかから」選ばれ,10度の授賞を行なってきました。奨励賞は若手を励ますと共に,授賞者が本学会で現在・将来も活躍することが期待されています。その奨励賞は,これまで地球科学,固体物性,流体物性・反応の分野から選ばれていますが,衝撃圧縮,高圧装置の分野からはまだのようです。また,バイオ関連の分野からも出てもらいたいものと思います。会員の活発な応募を期待致します。功労賞は主として企業の方々を対象とすることを念頭においており,これまで7度の授賞が行なわれました。
さて,応募者増を期待するところはあるとしても,概ね順調な授賞がなされてきているように思います。検討の余地があると思うのは,「学会賞」と「奨励賞」の間にギャップがないか,ということです。賞には学術的位置付けと年齢が考慮されています。そうすると,2つの賞の間には少し“窓”が空いているように感じています。
現在の高圧力学会のサイズ(正会員515名,学生会員85名)は,人間的交流からすれば顔が良く見える適度なものですが,経済効率から言えばやや小さいと思います。正会員の年齢構成を見ると大雑把には,39歳までが約150名,40~49歳までが約150名,50~59歳が約100名,60歳以上が約100名です。比較すれば若い世代の層が厚い学会です。高圧力を横糸に多様な分野の研究交流という性格や学会の運営方法が,若い世代の研究者から理解され,共感される魅力を持っていると言えるのではなかろうか思います。 約半世紀の歴史と伝統を持つ学会であり,奇を衒うことはないのですが,さりとてマンネリにならず進取の気風と爽やかな風が吹いている学会でありたいと思っております。その様な学会とするために会員の皆様からのご提言と一層のご協力をお願い致します。
明治の勃興期に誕生した老舗の学会はすでに100歳を超え,戦後の復興期に誕生した学会は60歳前後になっています。今も新しい学会が生まれていると思います。一体,大小の学会が幾つぐらいあるのか,国立情報学研究所のホームページ(学協会情報発信サービス)を見ると約450の学会が登録されています。高圧会議の嚆矢は1955年のゴードンコンファレンスでの高圧会議とあります(AIRAPTのホームページ参照)。AIRAPTの第1回会議は1965年です。日本高圧力学会は,世界的な連鎖の中で始まったと想像される1959年の第1回高圧討論会に源流を持ち,今年で47年,学会発足後17年目を迎えます。さらに高圧力の学術コミュニティーが学会を擁しているのは日本だけであることは皆様がよくご存知のことです。これらを総合的に勘案しますと,本学会が歴史的にも組織的にもユニークで誇れる存在であることに気がつきます。この肥沃な大地からこれからも数多の優れた学術成果が生まれることが期待されています。
高圧技術を横糸にした多様な分野の研究交流が高圧力学会の芯である事はこれからも変わらないのですが,創立17年を迎えて,さらに“学会らしさと魅力”を育てて行くことが求められていると感じています。八木前会長のもとで開始した若手奨励事業(高圧討論会ポスター賞,学生海外発表奨励金)もこの期待に応えようとするものです。他方,基盤となる学会の安定運営は,歴代会長のもとでの数年間にわたる検討と離陸準備を経て,新事務局体制と新学会誌編集体制,電子化が動き出し,一応の解決に至りました。この間,内海前庶務幹事,佐々木編集委員長,草場副委員長,高橋前委員長らの尽力は絶大なものがありました。もちろん絶対的安定はありえず継続的工夫が求められていくことは自明です。また,会長任期を2年とし,複数候補者による選挙に改正したのもこの趣旨からです。
“学会らしさと魅力”を増していく上で検討事項と考えられるものを,先の高圧討論会総会でも述べたことと重複致しますが,この機会に紹介させて頂きます。高圧討論会,新たな賞の新設,創立20周年への準備,“学会知”の発信,国際交流等ですが,ここでは紙面の関係上,2つに限って述べさせて頂きます。
1. 高圧討論会
毎回の高圧討論会は,参加者数,発表件数・内容ともにじつに旺盛で充実しており,現在の運営スタイルで特段の差し障りがないとも言えます。プログラム編成を含む一切を実行委員会に委ねている現在のスタイル,“現地完全委託方式”は,発表件数が300件程度である現在の討論会の規模と歴史と学会の力量を重ねた優れた解だと思います。ところで,セッションの編成は討論会を魅力あるものとする上で重要です。開催研究機関の研究独自色はシンポジュームセッションで引き出し,既設セッション(地球科学,固体物性,流体物性・反応,衝撃圧縮,高圧装置)はシンポジュームと一般講演で行なう方法が定着しております。一方で,討論会は学会の主催行事であるからプログラム編成に責任を持つべきではないか,あるいは,開催研究機関の力量ではプログラム編成が分野によっては重たく感じることがあるとか,の声も聞かれます。現在は問題があればその都度対応して解決していく方法をとっております。また,高圧討論会について会員の声を聞くことをシステムとしては行なっておりません。現行方式を改良・発展させたもう少し優れた方法を検討する余地がないのかと思っています。
セッションについて言えば,将来を見据えて「生物や生命関連のサイエンスとテクノロジー」を主題とするセッションを設けるべきではないかと思っております。個々にはそれらの発表がすでに討論会でなされていますが,セッションを編成することにより当該分野のアクティビティを顕在化させること,誰の目にも分るようにすることが必要ではないかと感じております。これらの研究分野での高圧力が果たす役割は,ブリッジマンによる蛋白質の圧力変性に淵源を見出だすことができ,また会員の皆様も見聞されておられると思います。集団として顕在化すれば,その分野が元気になり,また,学会の一分野として成長してくれるのではないかと期待しております。
高圧力学会らしく高圧技術がもっと見えるようにしてはとの意見も聞こえて来ます。室蘭工業大学の高圧討論会でも,高圧装置のセッションは聴衆も多く盛況でした。独自に開発してきた高圧セルを企業とタイアップして販売しようと考えているという発表も聞き,意気込みにたいへん感心しました。あるいは,赤浜先生の学会賞受賞講演で,マルチメガバールを達成するには“ダイヤモンド脆性の科学”を見据えた探索が必要であるとの講演に感銘された方も多いと思います。セッション発表方法の工夫(例えばシンポジューム,実物展示等)で一層の魅力増加と存在感発揮が図れないかと思います。例えば,セッション世話人がおり,イニシアチブが発揮されればスムースに展開するのではないかと思います。その他に国際交流セッションの可能生にも関心を持っております。
2. 賞の新設
学会賞,功労賞,奨励賞,そして高圧討論会ポスター賞が制定されたことはよくご存知のことと思います。各賞の性格は明確で,各賞に相応しい会員を選ぶことができているのは,学会としてたいへん喜ばしいことです。ノーベル賞を否定的に考える人は少ないでしょう。賞は顕彰された受賞者にとっての喜びであるだけではなく,その分野の到達点を端的に示し,次の世代に目標を与えることができます。従って,スポーツから芸術から凡そ人間活動が社会化されている領域では賞が設けられています。これも人間の知恵でしょう。
学会賞は,正会員で「高圧力の科学・技術の進歩に貢献し,内外から高い評価を受ける顕著な研究成果を収めた者の中から」選ばれ,現在までに5回の授賞を重ねてきました。奨励賞は35歳未満の正会員で「高圧力の科学と技術に関する新進気鋭の研究者・技術者のなかから」選ばれ,10度の授賞を行なってきました。奨励賞は若手を励ますと共に,授賞者が本学会で現在・将来も活躍することが期待されています。その奨励賞は,これまで地球科学,固体物性,流体物性・反応の分野から選ばれていますが,衝撃圧縮,高圧装置の分野からはまだのようです。また,バイオ関連の分野からも出てもらいたいものと思います。会員の活発な応募を期待致します。功労賞は主として企業の方々を対象とすることを念頭においており,これまで7度の授賞が行なわれました。
さて,応募者増を期待するところはあるとしても,概ね順調な授賞がなされてきているように思います。検討の余地があると思うのは,「学会賞」と「奨励賞」の間にギャップがないか,ということです。賞には学術的位置付けと年齢が考慮されています。そうすると,2つの賞の間には少し“窓”が空いているように感じています。
現在の高圧力学会のサイズ(正会員515名,学生会員85名)は,人間的交流からすれば顔が良く見える適度なものですが,経済効率から言えばやや小さいと思います。正会員の年齢構成を見ると大雑把には,39歳までが約150名,40~49歳までが約150名,50~59歳が約100名,60歳以上が約100名です。比較すれば若い世代の層が厚い学会です。高圧力を横糸に多様な分野の研究交流という性格や学会の運営方法が,若い世代の研究者から理解され,共感される魅力を持っていると言えるのではなかろうか思います。 約半世紀の歴史と伝統を持つ学会であり,奇を衒うことはないのですが,さりとてマンネリにならず進取の気風と爽やかな風が吹いている学会でありたいと思っております。その様な学会とするために会員の皆様からのご提言と一層のご協力をお願い致します。
〒700-0005岡山市理大町1-1 岡山理科大学理学部 基礎理学科
Department of Applied Science, Okayama University of Science, Ridai 1-1, Okayama 700-0005
Electronic address: takarabe@das.ous.ac.jp
《高圧力の科学と技術 第16巻第1号(2006年2月20日発行)巻頭言》
以前の「会長の挨拶」
-
「相互理解」と「融合」長谷川 正
《高圧力の科学と技術 第30巻第1号(2020年7月4日発行)巻頭言》 -
「幅広い分野の会員組織化を目指して」入舩 徹男
《高圧力の科学と技術 第28巻第1号(2018年5月23日発行)巻頭言》 -
「異分野間の交流促進に向けて」谷口 尚
《高圧力の科学と技術 第26巻第1号(2016年3月1日発行)巻頭言》 -
「日本高圧力学会の役割について」高橋 博樹
《高圧力の科学と技術 第24巻第1号(2014年2月20日発行)巻頭言》 -
「高圧力学会の新たな出発に向かって」上床 美也
《高圧力の科学と技術 第22巻第1号(2012年2月20日発行)巻頭言》 -
「学会設立20周年を迎えて」上野 正勝
《高圧力の科学と技術 第20巻第1号(2010年2月20日発行)巻頭言》 -
「次代の人材を育む学会に」青木 勝敏
《高圧力の科学と技術 第18巻第1号(2008年2月20日発行)巻頭言》